オーロラと低緯度オーロラの解説

 

塩川和夫(名古屋大学太陽地球環境研究所)

 

 

目次

1.オ

1.1.オーロして光る

1.2.オーロラどうしてろいろな色があの?

1.3.オーロ高さどれくら

1.4.オーロラの関は?

1.5.オーロラ光らる降込み電子はどこからるの?

2.低緯度オー

2.1.低緯度オーってな

2.2.なぜ日本うな低緯でもオーロラえるの?

2.3.赤い低緯オーロラはどしてきる

2.3.1.SAR

2.3.2.Broaand lectns

2.4.低緯度オを観

 

 

1.オーロ

 

1.オーて光る

 オーロラで光っているのは大気(空気)です。ではなぜ空気が光るか、と言うと、宇宙からやってきたプラズマと呼ばれる電子や陽子(おもに電子)が空気にぶつかるからです。もう少し詳しく書くと、図1.1のようになります。空気を構成している窒素分子や酸素分子、酸素原子は、原子核とその周りをまわる電子から構成されています。宇宙からやってきた高エネルギーの電子が、この空気分子の電子と衝突し、空気分子の電子にエネルギーを与えることによって、空気分子の電子は、これまでの軌道より外側をまわるようになります(励起状態と言います)。この状態は空気分子にとって不安定なので、時間がたつと自然に元の軌道に戻ります。このとき、2つの軌道のエネルギーの差の分だけ、光を出すのです。

 

図1.1:オーロラが光を出すメカニズム。宇宙から飛んできた電子にたたかれることによって、空気が光を出している。

 

 

1.2.オーロラはどうしていろな色があるの?

 

 電子の励起状態と戻った状態の2つの軌道のエネルギー差の分だけ、光が出ますが、このエネルギー差は出てくる光の強さではなく色に対応します。エネルギー差が大きいと青色、中くらいだと緑色、エネルギー差が小さいと赤色、になります。量子力学によって、電子がとることができる軌道のエネルギーは厳密に決まっていて、どのエネルギーでもとるわけではありません。このため、オーロラは、虹のようにすべての7色が出るわけではなく、数多くの決まった色(輝線と言います)の組み合わせで光っています。 

 

図1.2:オーロラの光の色は、励起状態(上の軌道)から落ちる状態(下の軌道)の間のエネルギー差によって決まります。

 

 

1.3.オー高さはどれらい

 

 オーロラは高さ90kmから600kmくらいのところで光ります。もっとも良く光るのは100−300kmです。世界で一番高い山エベレストが約8km、飛行機は約10kmの高さを飛ぶので、オーロラはそれよりもはるかに高いところで光っています。スペースシャトルは400kmくらいの高さを飛んでいて、まさにオーロラと同じ高さです。

 

図1.3:オーロラの高さ。

 

 地球の半径は6378kmですから、オーロラは地球の大きさに比べればはるかに小さく、まだまだ地球の表面に張り付いたような構造だ、と言えるでしょう。これは、オーロラを光らせている地球の大気(空気)が、地球の表面のすぐ近くにしか存在しないためです。

 

 

.4.オーロラ高さと色の関は?

 

 宇宙空間から地球に降り込んできた電子は、地球の大気にぶつかると、オーロラを光らせながらエネルギーを失っていきます。大気は高さが低くなるほど密度が濃くなっていくので、降り込み電子は、そのエネルギーが高いほどより低い高さまで入ってきて明るいオーロラを光らせることができます。この様子を、オーロラの代表的な発光輝線である赤色(波長630.0nm)、緑色(波長557.7nm)、青色(波長427.8nm)の3つの輝線で解説してみましょう。

 

赤色(波長630.0nm):降り込み電子のエネルギーが低い(100電子ボルト程度:1電子ボルトは1ボルトの電圧で加速された電子のエネルギー)時はオーロラの色は赤くなります。この赤色は高さ150km以上で、酸素原子が励起されて光っているものです。この高さでは、大気の成分はほとんどが酸素原子なのです。赤色を光らせる酸素原子の励起状態は、非常に励起されやすい(励起するためのエネルギーが低い)ので、低エネルギーの降り込み電子でも簡単に励起されてオーロラが光ります。

 

緑色(波長557.7nm):降り込み電子のエネルギーが高い(1000電子ボルト程度)の時には、緑色のオーロラがよく光ります。これは、高さ100−200kmくらいで、赤色と同様に酸素原子が励起されて光っているのです。この高さでは、低い高さほど酸素原子の密度が高いので、緑色のオーロラは明るくなります。

前述した赤色のオーロラに関しては、酸素原子が励起されて電子が外側の軌道を回り始めてから、光を出すまでに非常に時間がかかります(約100秒)。低い高さでは大気の密度が濃くなり、時間をかけて光を出す前に、他の大気分子と衝突してエネルギーを失ってしまうので、赤色は低い高さ(エネルギーの高い電子の降り込み)では光りにくいのです。緑色を光らせる酸素原子の励起状態から光までの時間は約1秒で、このために低い高さでも光を出すことができます。

 

青色(波長427.8nm):降り込み電子のエネルギーがもっと高い(10000電子ボルト程度)の時には、青いオーロラが光ります。これは、高さが90−120kmくらいで、窒素分子のイオンが励起されて光っているのです。このぐらいの低い高さになってくると、酸素原子の密度は減り、代わりに、地上と同じように窒素分子が大気の主成分を占めるようになります。この窒素分子が励起されてから光を出すまでの時間は0.000001秒以下と非常に早いので、密度の濃い、低い高さの大気中でも光を出すことができます。この窒素分子の発光は、バンド発光といって、青だけではなくピンクに近い色など、数多くの少しずつ違う色の輝線が発光します。

図1.4:オーロラの色と高さの関係

 

 以上のように、オーロラは降り込み電子のエネルギーによって色が違います。図1.4の写真に示すように、オーロラのカーテンの上の部分では赤、下の部分では緑になり、より激しいオーロラが出た場合は、カーテンの下の端が青やピンク色に輝きます。逆に言えば、オーロラの色を詳しく調べることによって、目では見えない宇宙空間からの降り込み電子のおおよそのエネルギーを知ることができます。オーロラの色の情報を使って、宇宙空間のプラズマである降り込み電子を研究することができるのです。

 

→末尾のQ/Aも参照して

 

 

1.5.オーロラをる降り込み電子はどから来の?

 

 オーロラを光らせる降り込み電子は、宇宙空間からやってきます。宇宙空間では負(−)の電荷をもった電子や正(+)の電荷をもったイオンは、あわせて「プラズマ」、と呼ばれています。地球は磁石になっていますが、電気を帯びたプラズマは、磁石の力の線(磁力線)を横切っては動きにくく、磁力線に沿って動く、という性質を持っています。図1.5に示すように、地球の磁力線は、太陽からのプラズマの風(太陽風)によって吹き流され、太陽と反対方向に長い尾を引いています。この地球の磁石の力が及ぶ範囲を「磁気圏」と呼びます。磁気圏は、図5に示すように、太陽方向には地球半径の10倍くらいまで広がり、太さが地球半径の40倍くらい、後ろの方は地球半径の数百倍以上まで、彗星のように尾がのびています。この尾の部分の真ん中には、プラズマシートと呼ばれる熱いプラズマがつまっていて、このプラズマが磁力線に沿って地球の高緯度地方に降り注ぐことにより、オーロラが引き起こされるのです。

 太陽風のエネルギーはもともと1電子ボルト程度です。それがプラズマシートになると1000ー10000電子ボルトまで加速されます。どのようにプラズマシートのプラズマが加速・加熱されているのか、というのが、地球周辺の宇宙空間物理学の主要なテーマです。オーロラの動きは、この宇宙空間のプラズマの動きを投影して見せており、オーロラを詳しく調べることで、地球周りのプラズマの動きを知ることができるのです。

 

図1.5:オーロラを引き起こす降り込み電子の源−地球の磁気圏

 

 

 

 

 オーロラについてより詳しく知りたい方は、以下をご参照ください。

 

*参考書

 ・ヤマケイ情報箱「オーロラ 太陽からのメッセージ」 

              上出洋介著 山と渓谷社

   写真が多い一般向けの本。サイエンスのことも分かりやすく

   書いてあります。

 ・「オーロラ その謎と魅力」 赤祖父俊一著 岩波新書

   オーロラ研究の歴史的なことが書いてあります。

 

 大学院生向けには、

 ・物理学選書5「宇宙空間物理学」   大林辰蔵著     裳華房

 ・物理学選書6「超高層大気の物理学」 永田武・等松隆夫著 裳華房

   オーロラ・宇宙空間物理学の古典的教科書。1970年代に書かれ

   たのに、今でも生きています。一度絶版になったのを裳華房が復刊

   させたので、書店では手に入らず、直接問い合わせる必要があるで

   しょう。

 

  オーロラや宇宙空間物理学の研究者が集まる学会は、「地球電磁気・地球惑星圏学会」です。こちらのホームページにもオーロラ及び宇宙空間物理学の解説記事があります。詳しくはこちら:http://swdcft49.kugi.kyoto-u.ac.jp/sgeweb/kyoiku/index.html

 

 

  東京大学理学系研究科地球惑星科学科のホームページには、オーロラ研究に関する大学生向けの資料があります。詳しくはこちら:http://stp-www.geoph.s.u-tokyo.ac.jp/index-j.html

 

 

 

 

 

 

 

2.低緯度オーロ

 

2.1.低緯度ラってな

 

 オーロラは通常、アラスカ、カナダ、シベリア、スカンジナビア、グリーンランド、南極大陸など、高緯度地方で見られますが、「磁気嵐」と呼ばれる地磁気擾乱が激しく起きたときは、日本のような低緯度でも見られます。日本で見られるオーロラはそのほとんどが赤い色をしています。古くは、「赤気」と呼ばれ、日本書紀の推古天皇(620年)や天武天皇(682年)の時代から江戸時代に至るまで、京都や江戸などで北の空が赤く光る現象が報告されています。現代になってからも、北海道などで北の空が赤くなり、山火事と間違えられて消防車が出動したりしています。このような目に見えるオーロラが見える確率は、北海道付近では10年に1度くらい、とされていました。

 

図2.1:北海道母子里観測所で観測された低緯度オーロラ。1992年2月27日。

 

 名古屋大学太陽地球環境研究所では、1989年から北海道の母子里・陸別観測所で低緯度オーロラを観測してきました。特に1998年からは高感度の分光測光器や全天カメラを用いて観測を続けた結果、1998年から2004年の太陽活動極大期に、20回の低緯度オーロラを観測することに成功しました。この一連の高感度測光機器による観測から、低緯度オーロラは、目に見えない明るさのレベルでは、従来考えられているよりもずっと頻繁に現れていることがわかりました。

 

太陽地球環境研究所がこれまでに観測した低緯オーロラのスト

 

 

 

2.2.なぜ日本うな低緯度でもオーロラ見えるの?

 

 なぜ普段はアラスカやシベリアなどの高緯度で見られるオーロラが、日本のような低緯度までおりてくるのでしょうか? それには、磁気嵐、というプロセスが深く関わってきます。図2.2を見てください。磁気嵐は、太陽面でフレアやCME(Coronal Mass Ejection)と呼ばれる巨大な爆発が生じ、その爆風が強い太陽風として地球にぶつかった時に起きます。そのとき、太陽風中の磁力線の向きが地球の磁力線の向きと反対になっていると、太陽風から地球の磁気圏にエネルギーが流れ込みやすくなり、太陽と反対側のプラズマシートに高エネルギーのプラズマが溜まります。より多くのプラズマがプラズマシートに入ることによって、プラズマシートの内側(地球側)の境界は、より地球に近くなります。オーロラはプラズマシートの電子が磁力線に沿って地球の大気に降り注ぐことによって生じるので、プラズマシートが地球に近くなれば、オーロラはより低緯度で光るようになります。これが、磁気嵐が起こるとオーロラが低緯度まで広がるメカニズムです。

 

 

 

 

 

図2.2:通常時の磁気圏(上)と磁気嵐中の磁気圏(下)。磁気嵐中には、プラズマシートのプラズマがより地球の近くまで入ってくるので、オーロラが低緯度側に広がってくる。

 

 磁気嵐は、平均すると一ヶ月に1回くらい起き、一度起きると1−2日間続きます。太陽面で強い爆発がなくても、太陽風中の磁力線の向きが長時間、地球の磁場の向きと反対になれば磁気嵐が起きることもあります。しかし、やはり大きな磁気嵐は太陽面の爆発に関係しています。太陽は11年周期でその活動度が上がったり下がったりするので、大きな磁気嵐も太陽活動の極大期周辺の数年間に起きやすいのです。面白いことに、太陽活動の極大の年よりも、その1−2年前と1−2年後に大きな磁気嵐が起きることが知られています。また、磁気嵐は統計的に、3月と10月(春と秋)に良く起きることが知られていますが、これは地球の自転軸と磁軸の傾きの関係から、春と秋には地球の磁力線の向きが太陽の磁力線の向きと反対向きになりやすいため、と説明されています(Russell-McPherron効果)

 

 

2.3.赤い低緯ロラはどうしできるの

 

日本で見られる赤い低緯度オーロラの発生メカニズムには、現在、次の2種類があると考えられます。1つはSARアーク(Stable Auroral Red arc)と呼ばれる1960年代から知られていた現象であり、もう一つはbroadband electronと呼ばれる1990年代に太陽地球環境研究所の研究によって見いだされた電子降り込み現象に伴うオーロラ発光です。どちらも、図2.3に示すように、磁気圏の中で、通常のオーロラ帯の電子の源よりも内側に存在し、プラズマシートの地球に近い部分に対応する、と考えられます。また、これらの赤いオーロラの他に、環電流の高エネルギーイオンが水素原子と衝突して電荷を失い、磁力線を離れて地球に降り注ぐことによって生じる、青い発光(窒素分子イオンや水素原子の発光)の低緯度オーロラがあることを、Tinsley et al.[1984]は指摘しています。

図2.3:低緯度オーロラを起こしている電子と、通常のオーロラ帯のオーロラを起こしている電子は、磁気圏内では内側と外側の関係になります。低緯度オーロラの源は、地球半径の2−4倍の場所に位置すると考えられます。

 

 

2.3.1.SAR

 

SARアークというのは、図2.4に示すように、主に磁気嵐の主相から回復相にかけて現れる現象で、プラズマ圏の低エネルギープラズマが、磁気嵐による環電流の高エネルギープラズマによりエネルギーをもらって加熱され、オーロラ帯の低緯度側に降り込んで来る現象です。プラズマ圏のプラズマのエネルギーは通常1電子ボルト程度、これが、環電流の高エネルギープラズマ(数万電子ボルト)によって数十電子ボルトまで加熱され、地球半径の3−4倍程度の位置から地球に降り込みます。数十電子ボルト、というのは、オーロラ電子としてはかなりエネルギーの低い方なので、SARアークはほとんど赤い光しか光っていません。宇宙空間から地球を見ると、磁気嵐によって広がったオーロラのドーナツの低緯度側に、張り付いたような形でSARアークが出ている、と想像されます。このエネルギー変換過程はゆっくりしているので、SARアークは通常、磁気嵐の主相から回復相にかけて、数時間から1日以上も長い間続きます。

 

図2.4:SARアークの発生メカニズム。地球の磁気圏を上から見た図。プラズマ圏の低エネルギープラズマが、環電流を構成する高エネルギープラズマによって暖められ、磁力線に沿って地球に降ってくる。プラズマ圏の位置は地球半径の4倍以内。環電流は地球半径の4−6倍程度の場所に位置する。磁気嵐中にはこれらの値がより小さく(地球に近く)なる。

 

 

2.3.2.Broadand lecro

 

このSARアークに関しては古くからその存在が知られ、日本で見られる低緯度オーロラもこれが原因と考えられていました。しかし、1992年5月10日に名古屋大学太陽地球環境研究所が陸別で観測した低緯度オーロラに関して、これとは全く違う描像が見えてきました。このときは、非常に運の良いことに、オーロラが出ている時間帯に、磁力線で結ばれたオーロラの上空をDMSPというアメリカの人工衛星が通過しており、オーロラを光らせている降り込み電子を直接観測していました。その結果、このオーロラはこれまでのSARアークとは全く違うメカニズムで光っていることがわかってきました。

図2.5はそのときのDMSP衛星の降り込み電子データです。上のカラーパネルは低緯度オーロラが起こる1時間前、下がまさに低緯度オーロラが起こっている最中の降り込み電子を表しています。図の左が高緯度側(磁気緯度77−80度:磁気緯度は地磁気の極から測った緯度)、右が低緯度側(磁気緯度45度)で、12分間で衛星は緯度方向に移動しながら降り込み電子を観測しています。カラーパネルの縦軸はエネルギーで、一番下が30電子ボルト、一番上が3万電子ボルトです。色が青から赤、白になるにつれて、降り込んでくる電子の量が多くなります。低緯度オーロラが起こる前(上のパネル)に比べて、低緯度オーロラが起こっている最中(下のパネル)は、磁気緯度60度から50度の低緯度側において、すべてのエネルギーで急に降り込み電子の量が増えていることがわかります。これがbroadband electronと名付けられた現象で、その後の研究から、磁気嵐の主相付近で、サブストームと呼ばれる磁気圏特有の擾乱が発生したとき、それに伴って1時間くらい出現する現象であることがわかってきました。

図2.5:1992年5月10日に低緯度オーロラが北海道で観測されたときに、磁力線で結ばれた上空を飛行していたDMSP衛星によって観測されたオーロラ電子。上は低緯度オーロラが起こる1時間前、下は低緯度オーロラが起こっている最中。カラーパネルの縦軸はエネルギーで30電子ボルト(下)から3万電子ボルト(上)。衛星は左(高緯度)から右(低緯度)へ12分間で飛行している。オーロラ帯の低緯度側で、すべてのエネルギー範囲で電子降り込みが増大していることがわかる(broadband electron)。

 

1章のオーロラ解説を読まれた方はお気づきでしょうが、このような、30電子ボルトから3万電子ボルトにわたる激しい電子の降り込みがあった場合、オーロラは赤い色だけではなく、緑、青やピンクなど、さまざまな色で光ります。ではなぜ、この時北海道で見られたオーロラは赤色だったのでしょうか? その答えは、オーロラの高さと色の関係にあります。図2.6のように、北海道の磁気緯度は35度、図2.5で示したbroadband electronが降り込んでいるのは磁気緯度50−60度付近です。この電子降り込み領域の直下では、赤や緑、青、ピンクといったさまざまな色のオーロラが出ているわけですが、北海道から北の空を見ると、低い高さのオーロラは地平線の下に隠れて見えなくなってしまい、高い高さで光る波長630nmの赤い発光のみ、見える、というわけです。

図2.6:broadband electronに伴う低緯度オーロラ(左)とSARアーク(右)。broadband electronによるオーロラの場合、北海道からは北の地平線近くに見えるため、低い高さで光る緑や青は地平線の下に隠れて見えず、高い高さの赤い光のみが見える。SARアークは直下で見ても、赤しか光っていない。

 

 一方、図2.6の右の図に示したように、SARアークは、降り込んできている電子のエネルギーが数十電子ボルトと低いため、直下で見ても赤い光しか光っていません。broadband electronとSARアークの違いを確かめるためには、DMSPのような人工衛星がたまたま上空を通るか、あるいは、シベリアや樺太に行ってオーロラを観測しなければならないでしょう。もう一つの違いとしては、broadband electronはその継続時間が1時間程度と短いのに対して、SARアークは数時間から1日以上と長く見られます。

 broadband electronをつくる磁気圏のメカニズムはまだわかっていません。磁気嵐の主相に、磁気圏の地球に近いところで、電子の急激な加速・加熱が起こっていること、その内側・外側の境界が非常にはっきりしていること、などが、図2.5に示したDMSP衛星のデータからは想像できます。でもその加速・加熱メカニズムが何であるか、今後の研究が待たれます。

 

 

2.4.低緯度

 

図2.7:全天カメラです。先端についているのが魚眼レンズ。次に丸く見える部分に5枚のフィルターが入っていて、オーロラの色ごとに測ることができます。お尻についているのが、人間の目よりもはるかに感度が良い冷却CCDカメラ。右の図は、1999年5月13日にこの全天カメラで撮られた低緯度オーロラの画像(北海道陸別観測所)。魚眼レンズなので、空全体が丸く写っていて、真ん中が天頂、上が北、左が東、右が西、下が南になっています。波長630nmのオーロラの赤い光のみを通すフィルターで、露出2分45秒で撮影。光が強いほど、白くなるように表しています。北の方角全体で、赤いオーロラが光っています。小さい点は星、東側の空を南北にかけてのびているのは天の川です。

 

 

図2.8:掃天分光フォトメータです。入ってきた光を色ごとに2つに分けることによって、1台でオーロラの2つの色の光の強さを、同時に測ることができます。上の突起部分に鏡が入っていて、視野を南北に振ります。このフォトメータも、人間の目よりもはるかに感度が良いのです。右の図は、このフォトメータで観測された2000年4月7日の低緯度オーロラで、赤い光(波長630nm、酸素原子)の強さを表しています。北海道陸別観測所でのデータです。上から下まで5つのパネルがあるのは、一番上が南の地平線近く、真ん中が天頂付近、一番下が北の地平線近くの、それぞれ光の強さを表します。横軸は時間で、日没後から観測を開始し、明け方まで観測しています。観測開始から、北の地平線近くだけ赤い光の強さが非常に強く、明け方に向けてどんどん弱くなっています。これは、磁気嵐の回復相に現れたSARアークです。

 

 

 

図2.9:磁力計です。写真の左がアンプ、右がセンサーです。低緯度オーロラは磁気嵐にともなって現れるので、磁力計で観測される地磁気の変化は、低緯度オーロラの発生を予想するために重要な役割を果たします。右の図は、2001年11月24日に北海道陸別観測所において、この磁力計で観測された磁場変動(下の3つのパネル:下から北向き、東向き、下向きの地磁気の変動を表す)と、北の地平線近くを見ている分光測光器のデータ(上の3つのパネル)です。横軸は時間(右端から左端までで1日)で、グリニッジ標準時(日本時間―9時間)で表しています。6時頃から、急に磁場が大きく荒れ始め、磁気嵐が始まったことがわかります。上の3つのパネルは、上から青、緑、赤のそれぞれのオーロラの明るさを表しており、赤い光のみ、磁気嵐の最中に強くなって、赤いオーロラが陸別の北に現れていることがわかります。

 

図2.10:陸別観測所の屋上に、オーロラ観測機器を設置した様子です。左から、全天カメラ、掃天分光フォトメータ、北の地平線近くを見ている分光測光器、掃天分光フォトメータです。雪や雨を避けるために、これらの機械は木の箱の中に納められています。

 

 

参考資料

 

  陸別での低緯度オーロラ観測は、陸別町銀河の森天文台のご協力で行われています。こちらのホームページでも、低緯度オーロラの写真を見ることができます。銀河の森天文台のホームページはこちら:http://www.town.rikubetsu.hokkaido.jp/tenmon/

 

  歴史書にのこる低緯度オーロラの記録に関しては、詳しい解説がこちらのホームページにあります:http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1999/pdf/19990203.pdf

 

 

参考文献

 

この章で記述してきたことは、まだ新しいことなので、教科書にはあまり書いてありません。大学院生のためには、以下の学術論文が参考になるでしょう。

 

*SARアークに関する文献: 数多くありますが、例えば、

Rees, M. H., and S.-I. Akasofu, On the association between subvisual red arcs and the Dst(H) decrease, Planet. Space Sci., 11, 105-107, 1963. 

 

Rees, M. H., and R. G. Roble, Observations and theory of the formation of stable auroral red arcs, Rev. Geophys. Space Phys., 201-242, 1975. 

 

Kozyra, J. U., E. G. Shelley, R. H. Comfort, L. H. Brace, T. E. Cravens, and A. F. Nagy, The role of ring current O+ in the formation of stable auroral red arcs, J. Geophys. Res., 92, 7487-7502, 1987. 

 

Okano, S., and J. S. Kim, Observations of a SAR-arc associated with an isolated magnetic substorm, Planet. Space Sci., 35, 475-482, 1987. 

 

 

broadband electron に関する文献は以下の3つです。

Shiokawa, K., K. Yumoto, C.-I. Meng, and G. Reeves, Broadband electrons observed by the DMSP satellites during storm-time substorms, Geophys. Res. Lett., 23, 2529-2532, 1996.

 

Shiokawa, K., C.-I. Meng, G. D. Reeves, F. J. Rich, and K. Yumoto, A multievent study of broadband electrons observed by the DMSP satellites and their relation to red aurora observed at midlatitude stations, J. Geophys. Res., 102, 14,237-14,253, 1997.

 

Shiokawa, K., R. R. Anderson, I. A. Daglis, W. J. Hughes, and J. R. Wygant, Simultaneous DMSP and CRRES observation of broadband electrons during a storm-time substorm on March 25, 1991, Phys. Chem. Earth, 24, 281-285, 1999. 

 

 

*2.3章でちょっとふれた青い低緯度オーロラに関する文献はこれです。

Tinsley, B. A., R. P. Rohrbaugh, H. Rassoul, E. S. Barker, A. L. Cochran, W. D. Cochran, B. J. Wills, D. W. Wills, and D. Slater, Spectral characteristics of two types of low latitude aurorae, Geophys. Res. Lett., 11, 572-575, 1984.

 

 

*2.4章に出てくる観測機器について詳しく知りたい方は、以下の2つの文献を参照してください。

Shiokawa, K., Y. Katoh, M. Satoh, M. K. Ejiri, T. Ogawa, T. Nakamura, T. Tsuda, and R. H. Wiens, Development of optical mesosphere thermosphere imagers (OMTI), Earth Planets Space, 51, 887-896, 1999.

 

Shiokawa, K., Y. Katoh, M. Satoh, M. K. Ejiri, and T. Ogawa, Integrating-sphere calibration of all-sky cameras for nightglow measurements, Adv. Space Sci., 26, 1025-1028, 2000.

 

 

 

Q/A:ホームページに対して頂いた質問から

 

Q1:赤色のオーロラは100eVで光る とありますが、可視光のエネルギーは数eVだと思うのですが、それとの関係はどうなのでしょうか。

 

A1: 波長630nmの赤色の光の励起エネルギーは1.97eVですので、1.97eV以上のエネルギーを持つ電子が酸素原子と衝突すれば、ある確率で酸素原子を励起して赤く光らせることができます。しかし1.97eVの電子が衝突しただけでは、たかだか光子1個分の光しか出ることができません。実際のオーロラでは、もっとエネルギーの高い(数百eVから数千eV)の電子が降り込みます。こういった高エネルギーの電子は、大気の原子・分子と衝突し、その大気の原子・分子に含まれている電子を外にはじき出すことによって、「2次電子」と呼ばれる、エネルギーの低い電子を生成することができます。例えば100eVのエネルギーを持つ1個の電子は、5eVのエネルギーを持つ20個の2次電子を生成することができるわけです。この2次電子群が、より強いオーロラの光を作ることになります。

 

 大気の原子・分子はさまざまな成分、エネルギー状態を持つ可能性を持っています。宇宙空間から入射した粒子は、大気の原子・分子と衝突し、それらをいろいろなエネルギー状態にしたり、2次電子を放出させたりしながら、だんだんエネルギーを失っていきます。 電子がこういった衝突を起こす確率(衝突断面積)は、一般的にエネルギーが低いほど大きいので、粒子は高エネルギーの時は衝突しにくく、大気中でいったんエネルギーを失いはじめると、急速にその場所付近でエネルギーを他の大気の原子・分子に

与えて消えていきます。

 

 

Q2:Q1と関係しますが、緑色、青色の光を出す際にはもっと大きなエネルギーが必要なのはなぜですか。

 

A2:青色やピンク色は窒素分子イオンの光です。大気は、高さ100km以下では、地上と同じように窒素分子が80%を占める主成分ですが、それより上になると、酸素原子の方がだんだん多くなってきます。青色の光を出すためには、宇宙空間からやってきた高エネルギー電子は、より大気の深く(100km付近)まで入ってこなければならず、従ってエネルギーが大きくなければなりません。

 

 緑色は酸素原子の光です。酸素原子の密度は高さが100kmくらいでピークになり、それより上では密度が下がってくるので、keV以上の大きなエネルギーの電子が降り込んで、この高度付近まで到達するようになると、よく光ります。緑色の光を出す励起状態(O(S)と書きます)と赤色の光を出す励起状態(O(D))と書きます)では、同じエネルギーの電子が入ってきた場合、赤色の方が5倍くらい、励起される確率が高いです。従って、励起状態だけで考えれば、O(D)の方が数多く励起されます。しかし、励起されてから光るまでの時間が、O(S)では1秒、O(D)では約110秒もかかるので、大気の密度が高くなる低い高度(150km付近以下)では、O(D)は励起されても、光を出す前に他の分子・原子と衝突してエネルギーを失ってしまうのです。

 

 

Q3:原子が励起されてから発光するまでに時間がかかる場合があるのはなぜですか。

 

A3:これは地球物理学ではなく量子力学の問題ですね。励起状態のエネルギーが、どんな値でもとれるわけではなく、ある決まったとびとびのいくつかのエネルギーしかとれないこと、それぞれのエネルギー準位に電子が存在するかどうかを厳密に決めることはできなくて確率でしか表せないこと、ということが、

量子力学で言う不確定性原理の本質ですが、なぜ不確定性原理があるのか、ということは、この宇宙・世界がそうできている、としか説明されていないようにも思います。滞在時間の違い(すなわち存在確率の大きさの違い)に関しては、分子・原子の形、電気的な力の分布を考慮した量子力学の方程式を解くと理論的に求まるはずですが、残念ながら、塩川も完全には理解していません。

 

 

 

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